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浦和地方裁判所川越支部 平成2年(ヲ)112号 決定 1990年7月06日

申立人 株式会社 ケルニックス

右代表者代表取締役 高橋良幸

右代理人弁護士 妹尾修一朗

同 藤澤實

相手方 日本ヘンクストラ株式会社

右代表者代表取締役 梅田弘

右代理人弁護士 西村寿男

主文

本件申立を却下する。

理由

本件申立ての趣旨及び理由は、平成二年四月二六日付申立書に記載されたとおりであるから、これを引用する。

所論は、要するに、当庁平成元年(執ハ)第四三号動産仮差押事件の執行対象物について、著しい価値の減少を生ずるおそれがないのに、当庁執行官がこれありとしてなした民事執行法一七七条三項所定の売却実施決定は違法であるからその不許を求めるというにある。

そこで、考察するに、本件仮差押えの本案訴訟が、これまでの審理経過に鑑みると、今後三年間は要する見込みであることは当事者間に争いがなく、一件記録によれば、左の事実が認められる。

1  本件仮差押えにかかる物件は、電磁カウンター、電子カウンター、タコメーター、シャフトエンコーダー、モータータイマーであって、いずれも自動計数制御機器で、工作機械等の部品として使用されるものである。

2  電磁カウンターは、昭和四九年四月一日相手方会社設立以来販売されてきたが、電子カウンターの製造販売を機に、その需要が減少傾向を示し、F八一六―AC二二〇V及びF八一六―AC一一〇Vについては既に製造中止を余儀無くされているし、その余の機種も同様の運命を辿るであろうことが予測できる状況にある。

3  協立電機外三社のユーザーはモータータイマーを長らく採用してきたが、平成元年に至って先ず東京協立電機がその使用を中止し、他の三社においても早晩同様の措置をとることが考えられ、更なる新規採用ないし需要増加は望めない状況にある。

4  加えて、ハイテク製品と呼ばれる電子カウンター、タコメーター、シャフトエンコーダーを含む自動計数制御機器については、機能向上、低価格、そして軽量化、小型化等のいわゆる軽薄短小化を目指し、同業他者との開発競争が激しく、一、二年足らずの短期間のうちに次々と新製品が製造・発売され、現に相手方会社においても近々電子カウンターのモデルチェンジを計画中で、新製品が発売されると前記電磁カウンター同様、従前の製品の需要が激減し、相手方の営業実績もそのように推移してきた。

そして、以上の事実に徴すれば、特段の事情のない限り、本件仮差押えにかかる物件については著しい価額の減少を生ずるおそれがあると言うべきである。

ところで、申立人は、電磁カウンター及びモータータイマーの需要減は相手方会社の市場分析力や情報収集力の不足、顧客サービスの不十分さなどに起因する顧客離れの現象にほかならず、その余の製品に関する内部構造又はモデルの変更も生産合理化とコストダウンというメーカー側の都合によるもので、商品価値の激減をもたらすものではない旨主張し、それに沿う証拠もあるが、前記認定事実に照らして採用できない。

そうすると、当庁執行官の前記処分は適法であるといわざるを得ない。

以上の次第により、主文のとおり決定する。

(裁判官 金野俊男)

<以下省略>

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